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第87話  

池田錚は、葛藤していた。

行く?池田家の跡取り息子であり、T子党八天王の一人である自分が、このまま引き下がったら、面目が立たない。

行かない?山岡さんが、あんな口調で自分に意見するのを、今まで見たことがない。長年、自分に仕えてきた山岡さんが、自分を危険な目に遭わせるはずがない。

どうすればいいんだ?

行くべきか、それとも。

池田錚は、個室にいる全員に視線を向けた。

森岡翔は落ち着いているが、他の者たちは、まだ動揺しているようだ。

虎榜の能力者同士の戦いは、凄まじかった。彼は驚きと共に、自分も、あのような強さを手に入れたいという強い憧れを抱いていた。

池田錚は、まだ帰るわけにはいかない、と思った。今日、ここで斉藤晨を殺せなくても、彼に一生忘れられない傷を負わせてやる。

もし彼が今日、ここで逃げたら、面子を失うだけでなく、彼の心に迷いが生じてしまうだろう。彼はすでに一流の上級だが、虎榜の上級の域に達するためには、揺るぎない決意が必要だ。

そして何より、彼は、誰も自分を殺せない、誰も自分を重傷にできない、という絶対的な自信があった。京都池田家の跡取り息子である彼に、手を出せる者はいないのだ。

江城には、池田家の怒りに耐えられる者などいない。

斉藤家でさえも無理だ。ましてや、他の家なら、なおさらだ。

斉藤晨が銃を使った時、銃口を向けたのは、山岡さんであって、自分ではなかっただろう?

これが、強大な後ろ盾を持つ者の特権だ。彼は人を殺せるが、彼を殺せる者はいないのだ。

そう考えた池田铮は、右手に力を込めて、斉藤瀟に剣を突き刺そうとした。

しかし、彼がどんなに力を込めても、剣は、びくともしなかった。

な、なんだ???

どうして???

自分の全力が、相手のたった二本の指に、阻まれてしまうとは?

山岡仁も、池田錚が、帰るつもりがないことを悟った。

池田錚が帰る気がない以上、彼も、どうすることもできない。彼は、池田錚を守るためにここにいるのだ。今はただ、池田家の名が、彼らを思いとどまらせ、手加減してくれることを願っていた。

「どうか、ご勘弁ください。池田家は、そのご恩を、決して忘れません!」山岡仁は慌てて言った。

森岡翔は山岡仁の言葉には耳を貸さず、池田铮に静かに言った。「池田さん、まだ諦めていないようですね」

そして、森岡翔は剣の先端を
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